カモ井と他のメーカーの違い
(3ヶ月ぶりのブログ更新です…)
前回、前々回のブログ記事で、「なぜカモ井以外の同業他社(6社)は雑貨用途の事業化を行わなかったのか?」について、
- メーカーにとってのニーズ情報の粘着性の高さが需要の不確実性を増大させた
- その結果、生産技術や販売チャネルといった補完資産への投資が困難となり、事業化に至らなかった
という可能性を指摘しました。
しかし、ニーズ情報の粘着性が高かったことや、需要が不確実な中、補完資産へ投資しないといけないといった困難は雑貨用途の事業化を行わなかった6メーカーに固有の問題ではありません。
事業化を行ったカモ井も企業間取引を専らとする工業用途のメーカーであった以上、同じ状況に置かれていたはずです。
にもかかわらず、カモ井が事業化を果たしたのはなぜでしょうか?
カモ井と他のメーカーの対応を分かつポイントは一体どこにあったのでしょうか?
結論を先取りすると、カモ井は和紙材のマスキングテープに関して新規事業を行うモチベーションが潜在的に他のメーカーよりも高かったと考えられます。
その理由は、事業構成の違いにあります。
カモ井はマスキングテープの製造・販売にほぼ特化しており、その中でも和紙材のマスキングテープの売上依存度は約8割にも及んでいました。
さらに、和紙材市場は今後伸びる余地はなく、国内の自動車需要の減退や建築需要の減少などを背景に将来的には緩やかに縮小していくという認識が当時の業界内でも支配的でした*1。
一方、他のメーカーは、マスキングテープ以外の粘着テープも製造・販売しており、さらにマスキングテープにおいても和紙材はその一部でしかありませんでした。
この和紙材マスキングテープへの売上依存度の高さと当該市場の成熟度の高さが、新事業に対するモチベーションに影響を与えていたと考えられます。
以上のことから、前回の記事で述べたニーズ情報の粘着性の高さに起因する需要の不確実性に加えて、新規事業に対するモチベーションの高さも、補完資産への投資に影響を与えていたといえるでしょう。
しかし、このモチベーションの高さというメーカー側の要因だけでカモ井が事業化を行ったことを十分に説明できるでしょうか?
次回以降、複数回に亘ってこの点について考察を深めます。
いよいよ核心に迫ります。
*1:実際、E社は、カモ井が雑貨用途の製品を発売したと聞いた際、「そこまでして和紙マーケットに突っ込むのか」という受け止め方をしたと言います。