ユーザーイノベーション教室

ユーザーイノベーションについて、分かりやすくお伝えします。

自主制作本の発行

前回のブログ記事で、3人の女性が建築塗装や自動車塗装の現場で使われる工業用のマスキングテープを本来のマスキング用途ではなく、装飾目的の雑貨用途で使うようになったという話をしました。

今回(と次回)は、彼女たちが単にマスキングテープを「愛用」するだけに留まらず、そうした使い方を広く世の中に知らしめる活動を次々と行っていっという話をします。

 

3人の女性の1人、辻本さんは、グラフィックデザイナーとしての仕事の傍ら、“Booklet”という自主制作本を発行していました。

その新刊の作成を予定していた時期が、3人で他県の大型ホームセンターにマスキングテープの買い出しに行ったタイミングと重なったことから、辻本さんは、急遽、新刊の制作を取りやめ、マスキングテープに関する自主制作本を一緒に作ろうと呼びかけました。

その2週間後に、ロバロバカフェでリトルプレス展という自主制作本の展示会が予定されていたので、そこに並べようと提案したのです*1

当時、辻本さんだけでなく、オギハラさんも“RECIPE”という自主制作本を発行しており、また、いのまたさんも本の作成やフリーペーパー*2の発行をしていました。そのため、3人とも本にまとめるということに対して、特別な難しさを感じていなかったのです。

その結果、2006年4月、“Masking Tape Guide Book”(以下、“MTGB”)という自主制作本が発行されることとなりました。

この本は、ロバロバカフェでのリトルプレス展で販売され、初版の100冊は、発行後、2週間も経たないうちに完売。その後、累計400部を超えるまで増刷されています。

 

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本の内容としては、大きく3つありました。

1つは、彼女たちがマスキングテープを本来の用途とは異なる使い方をするようになった経緯とその具体的な使用法。

2つ目は、6種類の筆記具と5種類のマスキングテープの組み合わせごとの書き味が検証された記録*3

3つ目は、他県の大型ホームセンターにマスキングテープの買い出しに行ったときのツアー記です。

さらに、本物の質感と色を伝えるために、実際のテープを1冊ごとに貼り込むといった工夫も施されていました。

(本の中身や雰囲気は、当時実際に購入された方がブログ等で紹介しています。例えばこちら

 

その後、12月には、2冊目の自主制作本、“Masking Tape Picture Book”(以下、“MTPB”)を発行しました。

初版の発行部数は100部で、その後、50部が増刷されています。

 

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1冊目の“MTGB”は、作成を思い立ってからリトルプレス展の開催まで2週間しかなかったため、本に盛り込みたくても、時間の制約上、できなかったことがありました。それを2冊目の“MTPB”のコンテンツとしたのです。

1つはマスキングテープの工場見学レポートで、もう1つは他の人たちによるマスキングテープの使い方の紹介でした。

後者に関しては、自分たちよりも上手にマスキングテープを使える人がいるはずで、その人たちの使い方を載せれば、もっときれいな誌面になると考えたのです。

そこで、プロの作家にマスキングテープを使った作品を依頼し、結果、協力を得られた17人の作家の作品を“MTPB”に掲載しました*4

 

こうしてマスキングテープの雑貨用途は彼女たち自身の手によって世の中に知られるきっかけを得ましたが、3人の女性が行った活動はこれだけに留まりませんでした。

この続きは、次回お話します。

*1:2004年に第1回目のリトルプレス展が開催された。後述のマスキングテープに関する自主製作本が並べられたのは第3回目で、2010年5月に閉店するまでの間、計4回実施された。

*2:具体的には、「ロバロバ通信」や「なんてことないはなし」。

*3:例えば、ボールペンや鉛筆は、表面の質感がつるつるしたマスキングテープには書きにくいが、油性ペンや水性ペンであればきれいに書けるといったこと。

*4:他にもロバロバカフェの近隣でマスキングテープを本来の用途外で日常的に使っている店舗などを取材し、その使用例を紹介する写真も収録している。