ユーザーイノベーションって何?
高校生の娘が友達に「それって、ユーザーイノベーションだね」と何気なく口にしたところ、「???」という反応が返ってきたことがあるそうです。
ユーザーイノベーションの研究を始めた当初、私はその意味を家族に伝え、「身近にそういった事例が何かないか、あれば教えて欲しい」とよく話していました。
そのため、我が家では「これはどう?」といった会話の中で「ユーザーイノベーション」という(お堅い)用語が、割と日常的に使われていたのです。
もちろん、そういった特殊な事情でもない限り(おそらく)一般的に通じる言葉ではないので、娘も友達の反応を目の当たりにした瞬間、「あっ、そうだった」と改めてそれが非日常用語であることを実感したと言っています。
今回は、ユーザーイノベーションという(お堅い)用語を当時まだ中学生だった娘にも分かるよう私がどう説明したのかについてお話します。
さて、ユーザーイノベーションの意味を(中高生にも分かるように)説明する上で、まず一番大切なことは、ユーザーイノベーションの話以前に「そもそもイノベーションって何?」という疑問に答えることです。
イノベーションという言葉は、経済・ビジネスのトピックスを扱った報道番組や新聞、雑誌などではすっかりお馴染みの言葉です。
普段そういったニュースや記事に触れる機会が少ない人でも、耳にしたことはあるでしょう。それくらい巷にあふれた言葉です。
でも、その意味はというと、漠然としたイメージで理解されている方が多く、単純明快に説明できる方はあまり多くはいないのではないでしょうか?
例えば、(少し古い話ですが)2007年6月、第一次安倍内閣では、人口減少が進展する中にあっても「イノベーション」によって、持続的成長と豊かな社会の実現を図ろうとイノベーション25と呼ばれる長期戦略指針を閣議決定しています。
そこでは、
日本語ではよく技術革新や経営革新などと言い換えられていますが、イノベーションはこれまでのモノ、仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことを指します
と説明しています。
いかがでしょう?
腹に落ちますか?
雰囲気としては分からなくもありませんが、(中高生にとっても)十分に単純明快かと言われると、少し厳しいかもしれません。
イノベーションという言葉の説明は様々ですが、私がこれまで目にした中では、Webデザイナーの上杉周作さんがTwitter上でつぶやいた内容が、シンプルに本質を突いていて、(中高生でも)直感的に理解できるのではないかと思います。
アップルで働くまで、イノベーションというのは「今にない、新しいものを作ること」だと思ってた。でもそれは違って、イノベーションというのは「未来にある普通のものを作ること」なのです。この違いを理解できるまでかなり時間がかかった。
— Shu Uesugi (@chibicode) February 5, 2011
私なりの補足を加えると、これはすなわち
- 革新
- 普及
の二点が揃ってイノベーションと呼ぶということです。
今までにない新しいものを作るというのは、文字通り革新的ではありますが、その段階ではいわば発明(invention)に過ぎません。
それがより多くの人、もしくは(絶対数は少なくても)特定の共通ニーズを持った人たちの間で普及し、(将来のある時点において)「普通のもの」として認識されるようになってはじめて、イノベーション(innovation)と判定できるのです。
したがって、発明(=革新)が結果的にイノベーション(革新+普及)に育つかどうかは、時間が経過してからでないと分からないというわけです。
革新的ではあっても普及しなかった、あるいは商品化さえされなかった製品やサービスは、ごまんとあるでしょう。
発明がイノベーションに育った端的な例は、スマートフォンです。
ご存知の通り、スマホの始まりは、アップル社が開発・販売した初代iPhoneです。それが世界レベルで普及し、今では「普通のもの」として存在しています。
(出所:http://photos2.appleinsidercdn.com/only-starter-iphone-jobs-pic-131004.jpg)
つまり、スマホはアップル社というメーカーが行ったイノベーションであったと言えます。
ここで一つ素朴な疑問があります。
「未来にある普通のものを作る」のは、アップル社のようなメーカーだけなのでしょうか?
結論を先取りすると、そんなことはありません。
メーカーではなく、(製品やサービスの使い手である)ユーザーが「未来にある普通のものを作る」ことだってあるのです。
これがユーザーイノベーションです。
次回はその具体的事例を紹介します。