ユーザーイノベーション教室

ユーザーイノベーションについて、分かりやすくお伝えします。

その後のmt

前回のブログ記事で、単に優れた製品を開発しただけでなく、雑貨用途に適した生産技術販売チャネルを獲得したことで、mtがビジネスとして成功する環境が整ったという話をしました。

今回は「その後のmt」を見ていくことにします。

 

2007年秋に発売開始となったmtは、翌年早々、雑誌「雑貨カタログ」(主婦の友社*1において雑貨オブザイヤー2007審査員賞を受賞しました。

同年秋にはグッドデザイン賞*2も受賞し、これらの受賞が製品の認知度アップに少なからず貢献しました。

販路が整い、店頭での露出度が高まるにしたがって、mtは「マート」(光文社)などの女性誌をはじめ様々な雑誌で取り上げられるようになりました。

注目を得たのは国内だけではありません。

2009年春には、フランスのハイエンドな女性誌“ELLE*34ページに亘って特集されています*4

こうした追い風のもと、mtは女性を中心に着実にファンを増やしていきました。

その一つの表れとも言える、2011年秋に東京都内で開催された「mt博」は、初日から1,300人を超える女性たちの熱気に包まれるなど、まさに大盛況でした。

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(提供:カモ井加工紙

 

主力の矢掛工場も今ではすっかりmt色に染まっています。

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(提供:カモ井加工紙

 

また、2012年からは「ファクトリツアー」という工場見学のイベントを毎年開催しています。

私自身も何度か参加したことがあるのですが、倉敷駅界隈の所定の集合場所に行くとマスキングテープでラッピングされたバスが出迎えてくれるなど、ファンにはたまらない設えがいくつも用意されています。

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限定テープの販売もその一つです。

一般に売り出されていない、まさにこのファクトリーツアーでしか手に入らないデザインのmtは、ファンにとっては喉から手が出るほど欲しいアイテムです。

こうした限定テープは通常のmtよりも高額となっています。

写真のテープにご注目ください。

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この限定テープの値段は、一個当たり770円となっています。

種類にもよりますが、通常のmtは一個当たり150円くらいで販売されています。

ホームセンターなどで販売されている従来のマスキング用途のテープに至っては、一個当たりおよそ50円に過ぎません。

これらと比較すると、この770円という限定品の価格がどれほど高いかよく分かるでしょう。

ところが、驚くべきことにファクトリツアーの参加者はこうした限定テープをためらいなくいくつも買う人が少なくないのです。

私の妻もその一人です。

写真の買い物籠は、妻のものです。

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昨年の春、一緒にファクトリツアーに行ったとき、これだけの量のmtを「大人買い」したのです。

会計は、総額17,000円を超えていました。

もちろん、妻がmtを買うのはファクトリツアーのときだけではありません。

春夏、秋冬の新作が出れば(数千円単位で)欠かさず購入します。

また全国各地で行われている「mt展」にも足を運ぶことがあり、そこでも(総額1万円を超える)限定品を買って帰ります。

その結果、我が家の棚は写真のようになっています。

(実際はこの2倍を超えるマスキングテープを保有しています)

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こうした「熱狂的なファン」の支えもあって、カモ井における雑貨用途のマスキングテープは、下のグラフが示すように、発売以降以降、順調に売上を伸ばし、現在、生産シェアで約9割と圧倒的な地位を築いています*5

   単位:百万円

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次回は、このマスキングテープの事例をもとに、ユーザーイノベーション論において重要な概念の一つである「リードユーザー」について概説します。

*1:2008年2月号。

*2:公益財団法人日本デザイン振興会が主催する、総合的なデザインの推奨制度。

*3:2009年4月号。

*4:他にも、“madame FIGARO”などの海外雑誌にも取り上げられました。

*5:調査を行った2012年時点のシェアで、前回のブログ記事で紹介したP社とQ社向けのOEM生産も含んでいます。